白い沙漠と緑の山河―南極!!極寒のサバイバルを支えた酒と食

著者の古山勝康氏は第29次越冬隊員としてあすか基地で調理・設営を担当した。本書は調理担当として、酒・食を通して南極を思考した書である。南極の調理、設営に従事する中で、いつも日本を思い浮かべ、日本に帰るとまた南極に思いを馳せる。冷たい岩がむき出しの南極の山と、緑の山河をたたえる日本の山は不思議に調和がとれている。酒がそのギャップを埋めているのだ。古山氏は南極でのサバイバルにも強い関心を持っていた。「地を這うように、舐めるように吹きつづける白い雪烟には“死の匂い”がする。チロチロチロと不気味な爬虫類の舌を思わせる」は紹介者の私には強烈な印象だった。古山氏は南極の氷雪の美しさの裏に潜む恐ろしさをこう表現した。第29次隊のあすか隊のクレバス転落事故は日本の南極観測史上、最も悲惨な事故の一つであった。その時も、なかなか到着しない「しらせ」からのヘリコプターを待ちわびる悪夢のような事故現場待機の日々に飲む酒は、これまでになかった苦い酒だった。こよなく酒を愛し、南極を愛した古山氏の本書は南極人に一読をお勧めしたい一冊である。

(神田啓史,会報21号)