著者の山崎哲秀氏は高校時代に冒険家の植村直己にあこがれ、20歳の時には彼の足跡を辿るようにアマゾン川のイカダ下りを成功させた。続いてグリーンランド縦断を夢見て北極に渡るが、想像を超える北極の自然に手も足も出ずに失敗した。その後、北極を知るためにイヌイットに弟子入りし、30歳の時に始めた犬ぞりを使った活動が、北極の自然や歴史、暮らしを紹介する本書に繋がっている。
「小学生の子どもたちでも楽しめる北極の本を書いてみたいと常々思っていた」という著者の強い思いが形となった豊富な写真とイラストを使い、平易な言葉で書かれた内容は子どもたちだけではなく、大人でも十分に楽しめる。
1章の「北極と南極の違い」から9章の「北極の歴史と昔の暮らし」まで、独立した章立てで、好きなところから読める構成になっている。いずれの章も筆者の30年に渡る北極での実体験に基づいたもので、読者が持つ素朴な疑問に答える形で書かれた内容は北極のイメージを広げてくれる。各ページの下部に書かれた「質問と答え」はクイズ好きな子どもたちには嬉しいアイデアで、北極への興味がより深まることだろう。
巻末の「犬ぞり探検家のこと」では北極での活動に対するモチベーションが語られ、さらに著者の良き理解者である伴侶との南極での劇的な出会いから結婚に至るまでのくだりは、著者の人となりが良く表れていて微笑ましい。
年齢を問わず、北極に興味のある多くの人に一読を進めたい。
(小林正幸,会報36号)